ガザ侵攻に対するホロコ―スト研究者の視点
――問題の限定:パレスチナ問題を二つの世界大戦と戦後世界史・植民地主義史のなかに位置づける必要性――
@体制(権力)中枢の根本的特質の類似性・共通性:ナチズム(国民社会主義)とシオニズム
*ナチズム・・・ドイツ民族主義(民族帝国主義)・人種主義(人種帝国主義・「生存圏」獲得)
*ヒトラー・ナチス占領政策・・・ポーランド侵攻・占領のなかでの「民族強化」「耕地整理」(1939-1940)、
対ソ侵略作戦バルバロッサ・ソ連分割構想(1941)、「東方全体計画」 (1942)
*シオニズム・・・ユダヤ民族主義・植民地主義・パレスチナでのシオニスト国家建設
(9割の先住民パレスチナ人の土地からパレスチナ人を追放)
*シオニストの大量入植・パレスチナ人難民化・「ナクバ」(民族浄化)・・・パレスチナを
「排他的なユダヤ人主権国家とすることを目指すイスラエル国家の思想基盤をなすシオニズム」
(岸まどか:『分かれ道』訳者解説、459)
・植民地主義
2023−2024・・・シオニスト支配・シオニスト入植地の極限的拡大
*代表的シオニスト・ダヴィド・ベングリオン(イスラエル首相初代・第3代)
「私は強制移送に賛成である。そこに何ら不道徳なものを見出さない」1938年6月
「我々にとって社会主義とは我々の救済への道である。
なぜならば社会主義は諸民族のためにあるのであって、その逆ではないからだ。」
(ダヴィド・ベングリオン『階級から民族へ』・・・民族主義的社会主義・ユダヤ民族の社会主義)
*パレスチナへの入植…拠点建設・拡大
シオニストは1920年代から現在のイスラエルの地へ移住(拠点建設開始のシオニズム運動・・・入植地建設)
・・・「嫌われ差別され迫害されるのなら、シオンの地へ出ていくだけだ。
そこでユダヤ人の国を創設するのだ」(テオドール・ヘルツル『イスラエル国家』)。
ナチズムとシオニズムの協力関係
強烈な排外的膨張的ナショナリズム・ユダヤ人排除政策のナチスと
シオンの地に国家を創設することを目指すシオニスト(シオンの地に国家を創設する強烈な軍事的ナショナリズム)
二つの自民族第一主義のナショナリズムの協力関係(アイヒマンの活躍・・・パレスチナへのユダヤ人「移住」の推進)
(ブレンナー、第5章 ドイツ・シオニズムのナチズムへの協力申し出)
移住・脱出できたものは、財産・能力・親類縁者の助けなど「有利な人々」
東欧・中欧のユダヤ人の圧倒的部分が、貧困・忍従⇒移住・脱出の可能性はなかった。
脱出したシオニストたちは、建国時、ホロコ―ストを「民族の弱さ」をとみなし、否定的に扱う。
Cf.オーストリア・ウィーンユダヤ人の場合、拙稿書評。
ヴァンゼー会議(1942年1月20日、議事録・・・東方への「疎開」方針の確認)
A理念・目標達成の手段としての武力の正当化・国家戦略の正当化
抵抗・闘いのたびに、圧倒的武力で「敵」を殲滅ないし鎮圧
・・・ヒトラー・ナチズム国家(権力)とイスラエル・シオニズム国家(権力)の共通性
ガザ攻撃に戦闘機投入・空爆・・・病院破壊、多数の子どもの犠牲など(『ガザ通信』、『ガザ日記』)。
闘いの中でのジェノサイドへの過激化の力学と論理
・・・ソ連攻撃におけるアインザッツグルッペの殺戮拡大・急進化の力学と論理
(例示:たくさんの事例からイェーガー報告書、
さらに拙著2001および拙著2022の第5章、第6章などを参照されたい)
B民族主義敵支配の極限的状況とジェノサイド
ワルシャワゲットー蜂起 (シオニストの精鋭集団die zionistische Elite)(ユダヤ人の闘争心・堅忍不抜さ)
*ヒトラー・ナチスの民族主義的膨張・人種主義戦争の諸段階の中での
ワルシャワ・ゲットー蜂起(徹底的鎮圧)の歴史的位置づけ
ヒトラー・ドイツの侵攻諸段階と敗退段階でのユダヤ人殺戮――累進的過激化――
ヒムラー命令・・・ 「1942年末までに総督府ユダヤ人を絶滅せよ」
ユダヤ人絶滅作戦(治安秩序・諸資源節約・口減らし・反乱要因排除))と
総力戦における労働力不足とのせめぎ合い
1943年4月、「疎開」、「撤収」作戦、最終段階・局面でのゲットー・ユダヤ人の抵抗・蜂起。
ポーランド人抵抗運動のユダヤ人支援・協力。
蜂起鎮圧現場責任者・親衛隊将軍シュトロープ証言(モチャルスキに対して)
(ニュルンベルク裁判でのシュトロープ報告書の引用・報告書表紙)
1943年4月19日(「撤収」作戦・準備から初日)ー4月20日から26日の「復活祭地獄」
5月1日、残存蜂起部隊員殲滅のためのSS「新パルチザン部隊・装備は最高級」、編成・投入
東方上級親衛隊兼警察指導者、親衛隊上級師団指導者、警察将軍F. W. クリューガー
「人種問題に造詣が深いクリューガーは、総督府統治区域の
すべてのユダヤ人の撲滅ということをきわめて重要視していました。」
5月5日までに4万5千人・・・「生け捕りにしたユダヤ人と数えることができたユダヤ人の死体」
5月7日、「平常通り」ナチス兵力約1300人で、約50の掩蔽壕を破壊。千人余のユダヤ人を逮捕。射殺約270名・・・
「蜂起司令部」・・・シオニズム左派をはじめとする多様な党派の結集。
しかし、宣伝上、「蜂起を煽ったのは共産主義者だけと発表。
蜂起を過激な民族主義グループを除くポーランド地下運動の全組織が積極的に支援。
5月12日までに大作戦行動開始以来捕らえたユダヤ人の数は、5万4500人に達した。
5月13日の特徴は、引き続き、蜂起戦闘集団、とりわけ若い男女の抵抗が楽興であったこと、そして、その日から、
捕らえたユダヤ人をトレブリンカ第二収容所にのみ送るべきであるという私(シュトロープ)と
クリューガーの決定があったこと」
5月16日20時15分、大作戦行動を終了・・・総数56065人、
この他に、シュトロープの見積もりでは、約6千人が射殺され、壁に押しつぶされ、
火事で焼死し、そして自殺。
さらに1943年秋までの作戦全体では、約7万1千人以上。
作戦は命令に従っただけ、ユダヤ人やジプシーや様々なモンゴル人は、
「真の科学という観点からすれば、ほとんど畜生に近いか不完全な人間かのどちらか」と。
非常にたくさんの物的戦利品
イスラエルのガザ侵攻とパレスチナ人に対するジェノサイド
シオニスト国家の領土拡大・植民地拡大・・・究極のところまで来ているのでは?
極限状態における
シオニスト・イスラエル国家の大規模軍事力に抵抗するパレスチナ人の粘り強さ
日々のテレビ報道と『ガザ通信』、『ガザ日記』など下記参照文献に豊富なジェノサイド事実。
Cシオニズムの思想・運動・シオニスト国家イスラエルへの支援・支持・武器供給などの問題性
シオニスト国家への支援:
アメリカ、イギリス、フランス、ドイツ、そして日本など――それぞれの国における諸潮流・対立的諸見地。
国家(特定の立場での政府。政治権力)による武器移転・武器供給・武器輸出の問題性。
日本との関係でいえば、日本政府による「武器輸出」のなし崩し的拡大・・・「紛争・戦争国家」への武器輸出。
侵略国家への武器輸出は、ジェノサイド・戦争犯罪を助けるものではないか。
武器移転国の国家の行動が、いかなる性格のものか、これが大問題となる。
一方でロシアによるウクライナ侵略を批判しながら、
イスラエル国家によるパレスチナ・ガザ地区へのジェノサイド(歴史的な入植者植民地主義・領土制圧地域拡大・侵略等)に無批判では、
ダブルスタンダードの批判を免れまい。
しかも、無批判のイスラエル国家支持は、自由と民主主義、それを基本原則とする日本国憲法と矛盾するのではないか?
アメリカへの武器輸出(ミサイル部品など)は、アメリカがイスラエルに武器供給をしている現状から、
問題ではないか?
他方、今回のハマスのかなりの数量の武器弾薬類、地下秘密通路網など、
「外部」からの財政援助・武器弾薬援助・工作機械援助といった「武器移転」関連の事実。
ーーーーー報告で参照した主要文献類ーーーーー
パレスチナ、ガザ、参照文献(問題の根本を提起する文献):
ジェノサイドの実相を生々しく伝える本:
@−1,サイード・アブデルワーヘド『ガザ通信』岡真理・TUP=訳、岡真理解説、志葉玲=写真、2009年4月10日
2008年12月27日から2009年2月19日まで、イスラエルによるガザへのジェノサイドの現場からの報告
@−2,岡真理『ガザとは何か――パレスチナを知るための緊急講義』大和書房、2023年12月31日。
2023年10月7日から12月末までのイスラエルによるガザ・ジェノサイド、ガザ地区無差別破壊の報告。
@−3, 『平和をめざす翻訳者たち=Translater United for Peace』
ガザ地区のジェノサイドンの実態を通報。
@−4, 岡真理「『人権の彼岸』から世界を見る――二重基準に抗して」同上。
ロシアのウクライナ侵略ばかり取り上げ、イスラエルのガザにおけるジェノサイドを無視する欧米の諸国家とメディアに対する痛烈な批判。
@−5, アーティフ・アブー・サイフ『ガザ日記――ジェノサイドの記録』中野真紀子訳、地平社、2024.05.29.
シオニズム・シオニスト国家の長期の行動とそれに対するパレスチナ人の抵抗
Aラシード・ハーリディ『パレスチナ戦争――入植者植民地主義と抵抗の百年』2023年12月15日。
コロンビア大学エドワード・サイード特別記念教授。
1947年国連分割決議案(地図)
・・・・第二次大戦直後の国連=連合国の原則的態度の問題性(植民地主義批判の欠如)
今日のジェノサイドにつながる大々的暴力の発端
Bイラン・パぺ『パレスチナの民族浄化――イスラエル建国の暴力』法政大学出版局、2017
・・・ナクバの実態を詳細に。
Cイラン・パぺ(イギリス・エクセター大学教授)『イスラエルに関する十の神話』法政大学出版局、2018
・・・シオニズムの歴史に関して、簡明な説明。
「二国解決策」の欺瞞性を批判
神話を徹底的に批判した結論・・・「21世紀の殖民・植民地主義国家イスラエル」
Dサラ・ロイ『ホロコ―ストからガザへ――パレスチナの政治経済学』
岡真理・小田切拓・早尾貴紀編訳、青土社、2009年
Dヤコブ・M・ラブキン『イスラエルとは何か』平凡社、2012
今日のジェノサイドを容認する「自由主義」「民主主義」陣営の国家・メディア(アメリカ、ヨーロッパ、日本など)への痛烈な批判
E内藤正典・三牧聖子『自壊する欧米――ガザ危機から問うダブルスタンダード』集英社新書、2024年4月
パレスチナに対する差別意識の諸相――19世紀以来の西洋の中東への差別意識
FE. W. サイード(コロンビア大学教授)『オリエンタリズム』板垣雄三・杉田英明監修、今沢紀子訳、平凡社 1986
「オリエンタリズム再考」、Cf. サイード批判(マッケンジー)、ロシアの東洋蔑視(p.12-13)
G工藤庸子『ヨーロッパ文明批判序説――植民地・共和国・オリエンタリズム』東京大学出版会、2003
シオニズムの総合的検討
H臼杵陽監修・赤尾光春・早尾貴紀編『シオニズムの解剖
――現代ユダヤ世界におけるディアスポラとイスラエルの相克』人文書院、2011
ユダヤ人のなかでのシオニズム批判・・・上記文献における批判の他、
Iユダヤ人、ジュディス・バトラー(2012)『分かれ道――ユダヤ性とシオニズム批判』大橋洋一・岸まどか訳、。青土社、2019
訳者解説(大橋洋一,482-483)より・・・「イスラエル政府の自己防衛の名のもとに継続されるパレスチナ人への暴力的政策は、
人類/人道への犯罪と呼ぶにふさわしい過酷lさをともなって、今この瞬間にも即刻停止すべきものとなっている。」
ナチスの「犠牲者であったユダヤ人が迫害者にかわり、パレスチナ人がその犠牲者になるとき、怒りにまかせて
イスラエル国政府とナチスと同じだと罵ったとしたら、たとえ意図していなくとも、それは反ユダヤ主義的発言と
みなされてしまう。・・・イスラエル=ナチスのメタファーは、反ユダヤ主義陣営を勢いづかせるだけではない。
イスラエル政府からも逆説的な歓迎を受ける。・・・」
*本報告の見地は、「ナチスと同じ」ではなく、ナチズムとシオニズムの共通性・類似性を確認するもの。
ナチズムが東方大帝国建設・世界強国建設を目標とするのに対して、
シオニズム・イスラエル国家は、そのような世界戦略・目標を持っていない、など相違点も多々ある。
――――――――――――――――――――
問題意識:
今回のイスラエルのガザ侵攻・ジェノサイドを見る場合、
シオニスト・イスラエル国家による「ナクバ」以来の長期の、国家創設以来のパレスチナ人にたいする「国家テロ」を検証する必要がある
上記例示の基本文献が示すのは、まさに、70数年間におけるシオニスト・イスラエル国家の残虐行為、
上記文献には、パレスチナ人に対する「国家的テロ」というべきもので充満している。
シオニスト、シオニズム、イスラエル国家の暴力的武力的パレスチナ隷属化(植民地主義)の歴史を見ず、
シオニズム・イスラエル国家を支援(武器移転、武器輸出、武器供給)しているアメリカをはじめとする列強
(日本・政府与党も例外ではない…Ex。安倍政権のイスラエル政府との親密さ)
民主主義・自由主義を標榜するアメリカなどの
イスラエル支持において、「テロとの戦い」という看板がもつダブルスタンダード
「アメリカこそが最大のテロリストだ」(アフガニスタン、カブールの学生)
ユダヤ人の中にも、シオニズム・シオニスト・イスラエル国家に対する根本的批判の潮流あり。
上記文献では、特にFが代表的。
岡真理文献(ほかの上記主要文献を踏まえている)を読むと、
まさに、第一次、第二次インティファーダの行動とそれを鎮圧するイスラエル国家、
シオニスト、シオニズムの主張・理念・行動がいかに一貫しているかがわかる。
そうしたことを踏まえて、
結論的なことを先取りしていえば、
ホロコ―ストの経過を見てきた観点からすれば、今回の「ハマスのテロ」なるものは、
ナチスによるゲットー殲滅に対する最終段階での絶望的なワルシャワ・ゲットー「ユダヤ人蜂起」が想起される。
(貧弱な武器、地下水路などの利用、徹底的に殲滅されるユダヤ人)と重なって見える。
(ガザの悲劇――イスラエル国家の暴力批判、アメリカの対テロ戦争批判――徐京植)
イスラエル・シオニスト国家は、自分たちのホロコースト犠牲者としての側面だけを強調することにより、
第二次大戦後のシオニスト国家の創設がパレスチナ侵略であり、入植者植民地主義であって、
そうした思想・行動・国家の武力装置が、パレスチナに対する民族主義的抑圧や人種主義的隷属化を
見えなくしてきたのではないか。
*「ホロコーストはイスラエル国家の行為を正当化するために利用されてきた」
(ホロコ―スト・サバイバーの家系・サラ・ロイ244)
*2023・10・7以降のイスラエル国家の言説も、侵略者・抑圧者としてのシオニスト国家がパレスチナ人に70数年に渡って
与え続けた苦しみについて、一切語らないことを特徴としている。
(パレスチナ人の悲惨さを知ろうとしない・・・2009年)
翻って、1943年4月半ばから5月半ばにかけてのワルシャワ・ゲットー(蜂起委)は、いかなる歴史的文脈か?
ユダヤ人迫害の諸段階・・・ナチス人種主義政策の基本とその実現の諸段階
・・・1933年1月の政権掌握直後、まず、「マルクシズム=ヘブライ人の民族破壊者連中」を徹底的に弾圧。
ナチス人種主義の基本=優等人種・アーリア人種による劣等人種の支配の正当化
・・・ヒトラー『わが闘争』、『第二の書』。
ナチズム人種主義の諸民族の階層的位置づけ、そのなかで、
頂点に「アーリア人種」、そのドイツ民族を頂点とし、スラヴ系、アジア系人種・諸民族を下位に位置付け、
最底辺に「ユダヤ人」「ユダヤ民族」を位置づける・・・そのユダヤ人、ユダヤ民族のヨーロッパからの追放。
Cf.1940年春のヒムラー秘密覚書・・・諸民族の階層秩序・そこでのユダヤ人の位置
シオニズム・イスラエル国家は、
アラブ系の人びとを見下し、軽蔑し、差別し(「オリエンタリズムの潮流」継承)、人権・人命をないがしろにする基本的傾向
このたびのイスラエルのガザ侵攻・徹底的軍事作戦で、3万7千余(6月11日現在)のガザ地区パレスチナ人を殺害。
現段階・・・パレスチナ人抑圧累積、「破裂寸前の圧力釜」という局限状態。
第二次大戦後の武力的国家的シオニズムによるパレスチナ人の被害の累積、生存諸条件の極小化、
ゲットーへの封鎖、そのゲットーの生活諸条件の悪化、パレスチナ人・民族が殲滅される危機意識、
ナチズムは、対ソ攻撃で明確に打ち出されたように、
ユダヤ人・ユダヤ民族とボルシェヴィズムの同根視、
ユダヤ人・ユダヤ民族の殲滅とボルシェヴィズム殲滅の同時必要性の主張。
スラヴ人の隷属化が目標・・・「ドイツ民族の生存のために」(ヒトラー『我が闘争』および『第二の書』)。
ソ連・スラブ人の抵抗・反撃を殲滅しようとするヒトラー・ナチスの人種主義的征服戦争。
実際に犠牲者は、2000万とも2700万とも称されるソ連人民。
パレスチナ人大衆に対するジェノサイドを行っている、というのが、世界的に指摘されてきている。
―――報告要旨で書いたこと―――
ネタニヤフ・シオニスト極右政権は、「ハマスのテロ」をナチスによるユダヤ人迫害・殺戮=ホロコ―ストと同列に置いた。
「ハマス殲滅」の名目のもと、ガザ地区への侵攻とパレスチナ人に対する大量殺害を「イスラエル防衛」の大義で正当化している。
しかし、まさにそのシオニストの歴史的行動、シオニスト国家の歴史的行動こそ、
ヒトラー・ナチスのジェノサイド、民族主義的膨張、植民地拡大と共通性を持つ。
20世紀初頭以降のシオニズム運動・国家がパレスチナへの入植拡大、植民地拡大によって、
パレスチナの人びとをいかに一貫して迫害・抑圧してきたことか
・・・「天井のない監獄」化=ゲットー地区ガザの実態、
それに対するパレスチナ人の絶望的抵抗=民族解放運動の歴史のなかで、諸事件を見る必要はないのか?
この歴史的視点からは、昨年10月のハマスの大規模なイスラエル攻撃は、
ホロコ―ストの歴史の中では、1943年4月のワルシャワ・ゲットーの絶望的ユダヤ人蜂起と同じ性質のものではないか。
――――――
ワルシャワゲットー絶望的蜂起と今回のハマス・ガザ地区の「蜂起」、「反乱」、抵抗との違いは何か?
ワルシャワ・ゲットーでのユダヤ人の絶望的闘いは、世界周知のことではなかった。
むしろ、戦時下、ドイツの軍と親衛隊・警察機構の圧倒的武力の現実(実態)は、まったく世界の知るところではなかった。
この1943年4月ゲットー蜂起は、ユダヤ人絶滅政策でポーランド総督府ユダヤ人約200万人を
極秘ラインハルト作戦によりガス殺してしまった後のことである。
ワルシャワ・ゲットーのユダヤ人蜂起とその徹底的鎮圧(ナチス親衛隊将軍シュトロープ…獄中聞き取り経緯)は、
ヒトラー・ドイツのユダヤ人絶滅作戦(ユダヤ=ボルシェヴィズム殲滅作戦)の最終段階においてであった。
今日のガザ地区パレスチナ人の惨状は世界周知のことであり、
インドネシア、マレーシアをはじめイスラム諸国、それにトルコなど、
パレスチナに共感・支援の国々、多数。
真実を知れば、認識に応じて、それに対応した種々の行動をとる。
世界の学生をはじめとする人々がパレスチナ人救済に立ちあがる現状は、大きな意義をもっている。
ホロコ―スト、すなわち、
ユダヤ人大領虐殺は、
ナチス・ドイツの1941年6月のソ連侵攻とともにはじまり、
41年12月の真珠湾攻撃・対米宣戦布告・文字通りの世界大戦化で、
ソ連以外のヨーロッパ諸国(総督府ポーランド、西欧諸国、南東ヨーロッパ)のユダヤ人へと拡大。
この見地からは、
ヒトラー・ナチスドイツの「東方大帝国建設」政策、そのための戦争政策・占領政策と
これに対する抵抗・反撃としての諸国民の戦いという全体的文脈のなかで、ホロコ―ストを把握する必要がある。
そうした反ヒトラー・反ナチズム・反ファシズムの闘いは、少なくとも闘いに立ち上がった兵士の立場からは、
テロとは定義されない。
たとえば、 ポーランド人のワルシャワ蜂起(1944年8月)を彼らは、「ワルシャワのための戦い」と呼んでいた。
蜂起、とか、反乱、という形容・定義は、ナチス・ドイツ統治・占領の正当化表現となる。
(ヒトラー・ナチス首脳にとっては、占領統治への抵抗・反撃としての武装闘争は
テロ、反乱、蜂起などと位置付けられる。
ユダヤ人も、「パルチザンとして根絶する」という位置づけになる。
「として」というところに注意!!
ドイツ大軍の後方で抵抗するパルチザンを鎮圧する、
その関連でユダヤ人も一掃する、と。
(Cf. 私のホロコースト研究の対象・テーマ )
視点:イスラエルとパレスチナの戦いの歴史(「パレスチナ戦争」)
シオニズムのイスラエルとこれに対するパレスチナ民衆との闘いの
段階的な状態はいかなるものか?
(最新のパレスチナ国家承認は、国連加盟193か国のうち146か国)
「全ての当事者が同意しない限り、1967年以降のパレスチナ国境のいかなる変更も承認しない」
(なぜ1967年以降の国境なのか? 1948年の「ナクバ」以降のパレスチナ人の悲劇を考えれば、
1947−48年以降のシオニスト国家によるパレスチナ占領全体を問題にしなければならないのでは?)
ユダヤ人迫害から殺戮への諸段階については、
Cf.拙著『アウシュヴィッツへの道』目次
ナチス・ドイツ国家によるユダヤ人差別・迫害は1933年1月から、
ユダヤ人殺戮は、1941年6月からソ連で開始、
41年12月の日本の真珠湾攻撃に呼応するヒトラーの対米宣戦布告、文字通りの世界戦争化、
42年1月20日のヴァンゼー会議(「ユダヤ人問題の最終解決」を議題とする会議)
・・・それだけではなく、ドイツ占領下ヨーロッパのユダヤ人の絶滅政策
ナチ体制下12年、とくに戦時下、時間的には非常に短期間(3年ほど)に、ユダヤ人殺戮が実行される。
対して、
パレスチナにおける70数年間のパレスチナ人への迫害・殺害とは、その点で違うーー長期占領支配の残酷さ(例)。
シオニズムとは何か?
(ヘルツルは「ユダヤ人国家」を創設することが第一義的目標・・・ヘルツルまでは、シオンの対象地不確定)
パレスチナに移住・植民し、ユダヤ人国家を建設しようとするシオニスト、シオニズム
その運動の結果、第二次世界大戦後に成立したイスラエル・シオニスト国家・シオニズム国家
(1947年11月29日、国連総会「パレスチナ分割案」採択、多くの国の国連代表が創設に賛成)
「ナクバ」(1948年)・・・イスラエル建国宣言、パレスチナ民族浄化開始。
大規模なパレスチナ人の居住地からの追放(イスラエル建国の暴力)
パレスチナをユダヤ人の土地にしてしまう!…先住民追放・民族浄化・・・聖書の利用。
このイスラエル国家創設に反対するパレスチナ・アラブ諸国の抵抗・中東戦争(第一次1948年)
1948年から今日までの一貫した傾向は、イスラエルの領土拡大、シオニスト・入植地拡大・入植者の増大
年表(岡真理『ガザとは何か』より、抜粋)
ナチズムとシオニズム
ナチ・イデオロギーとシオニズムの基本的要素の一致(ブレンナー『ファシズム時代のシオニズム』59)
シオニストの見地・・・ユダヤ人はドイツ国民の構成要素には決してなりえない、
従って、ドイツの地には場違いな人種である、と。
この立場からすると、
シオニストのなかにナチとの間に妥協は可能だと考えるものが出てくること…避けがたかった(ブレンナー59)。
両者の「協力が始まるのはヒトラー政権成立後のことである。」(同上60)
ナチズムとシオニズム・・・二つに共通するのは、強烈な「民族主義」、そして、自民族のための領土獲得・拡大
フランス革命以降、19世紀に進展したデモクラシー、そこでの同権化(ユダヤ人解放)、同化主義
シオニズムとナチズムは、デモクラシーの原理に対して、対極的立場・・・同化不可能の見地。
「シオニストにとって自由主義は敵である。また、ナチスにとっても自由主義は敵である」(ブレンナー60)
シオニズムとイタリア・ファシズムのあいだにも、「民族主義」と自民族の領土獲得・拡大という点での共通項。
ナチズム(ヒトラー)とファシズム(ムッソリーニ)の太い共通性がある
(ヒトラー『第二の書』1928年は、この両者共通性を徹底的に解明)
ナチズム=国民社会主義・・・まさに社会主義シオニズムと同じ柱。
両者の共通項は、民族第一・・・「民族の生存」 (自民族第一)
他民族支配を正当化する考え方。
聖書を用いた入植地作り・・・乱暴狼藉を聖書に依拠した政治的合法行為として正当化・・・狂信主義。
聖書には、みな殺しの記述がある(「ジョシュアによってアマレク人が皆殺しにされる個所」(パぺ2018、73)。
ネタニヤフ政権の特に極端な部分(極右中の極右)には、
「皆殺し」を正当化するような言動・・・・ある。
(それに根底的に批判するガンジーの見地パぺ2018, 78を見よ)
シオニズム=パレスチナへの植民地主義運動
(「帝国主義的植民地主義という社会悪」の一形態)
(殖民・植民地主義の一形態、南北アメリカ大陸で先住民部族とその社会を根こそぎ破壊、
オーストリアのアボリジニー、南アフリカのアパルトヘイトなど)
1882年最初のパレスチナへのユダヤ人入植者
・・・先住民・パレスチナ人・地元民を「土地を盗んで住み着いた外国人」と見なした。
シオニズム運動者は、地元民=先住民=パレスチナ人を、先住民ではなく、土地に対して何ら権利を有していないと
入植者に説明(パぺ『イスラエルに関する十の神話』2018,第四章、 87)。
シオニスト・・・パレスチナ=「新天地は神から授かったもの、あるいは神からそこを開発する使命を与えられた」ものという正当化論理(88)。
先住民を人間以下のものだとする非人間化の論理(89)。
ヒトラー・ナチズム
ボルシェヴィズムとユダヤ人を同一視して、ユダヤ=ボルシェヴィズム殲滅を「ドイツ民族」の防衛で正当化する論理
ヒトラー・ナチスにおけるユダヤ人の位置づけ(考え方、イデオロギー)
ナチズムとシオニズムとの民族主義・人種主義での共通性
(シオニズムへの徹底的批判の書:レニ・ブレンナー著芝健介訳『ファシズム時代のシオニズム』法政大学出版局、2001)
「ヒトラーの犠牲になった膨大な数のユダヤ人のほとんどはシオニストではなかった。」 (同上,2)
ブレンナー「不動の反シオニストとしての私の結論を先取りしてはっきり申しあげれば、
シオニズムは完全に間違っている。」
(ブレンナーも、ユダヤ人だが、シオニズム批判の潮流に属する。)
ヒトラー政権における民族主義的膨張の諸段階と反ユダヤ主義の累進的過激化
ユダヤ人迫害からユダヤ人殺戮への諸段階